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 大阪高裁と東京高裁の靖国参拝訴訟の判決結果が割れた。
小泉純一郎首相の靖国神社参拝は憲法で定めた政教分離に違反すると主張し、旧日本軍の軍人・軍属として戦死した台湾人遺族や日本人の宗教関係者ら188人が首相と国、靖国神社に1人1万円の損害賠償を求めた訴訟の判決で、大阪高裁(大谷正治裁判長)は、「参拝は、憲法が禁止する宗教的活動と認められる」と高裁レベルで初の違憲判断を示した。賠償請求は認めず、原告側の控訴を棄却したが、原告側は「実質勝訴」とみて上告しない方針。請求が棄却されているため、国側が判決理由を不服として上告することは事実上難しく、判決は確定する見通し。
 小泉首相靖国参拝を巡る同種訴訟は全国6地裁で7件起こされ、違憲判断は、04年4月の福岡地裁判決(確定)以来2回目。今回の判決は、福岡地裁の判断を踏襲したものといえる。高裁判決は、7月の大阪高裁(別の原告団)と今月29日の東京高裁と2回あるが、憲法判断せずに原告側が敗訴している。
 判決は、(1)参拝は、首相就任前の公約の実行としてなされた(2)首相は参拝を私的なものと明言せず、公的立場での参拝を否定していない(3)首相の発言などから参拝の動機、目的は政治的なものである、などと指摘し、「総理大臣の職務としてなされたものと認めるのが相当」と判断した。
 さらに、参拝は客観的に見て極めて宗教的意義の深い行為と判断し、国内外の強い批判にもかかわらず参拝を継続しており参拝実施の意図は強固だったとして「国は靖国神社と意識的に特別のかかわり合いを持った」と指摘。「国が靖国神社を特別に支援し、他の宗教団体と異なるとの印象を与え、特定の宗教に対する助長、促進になると認められる」と述べ、憲法20条3項の禁止する宗教的活動と結論付けた。
 一方で、原告の思想や信教の自由などを圧迫、干渉するような利益の侵害はないとして首相らの賠償責任を否定した。
 昨年5月の1審判決は「国の機関としての総理大臣の職務行為とは言えない」と私的参拝と判断、憲法判断せずに請求を棄却。原告側が控訴していた。
 小泉首相は01年8月、02年4月、03年1月、04年1月の計4回、靖国神社に参拝。秘書官を同行して公用車で訪れ、「内閣総理大臣小泉純一郎」と記帳、献花料は私費で支払っていた。訴訟で首相側は「個人の思想、信条に基づくもの」と私的参拝を主張している。(以上大阪高裁)


小泉純一郎首相の靖国神社参拝は政教分離を定めた憲法に違反するとして、千葉県の戦没者遺族や牧師ら39人が首相と国に1人10万円の慰謝料支払いを求めた訴訟で、東京高裁は昨日、請求を棄却した1審判決を支持、原告側の控訴を棄却する判決を言い渡した。1審は首相の参拝を「職務行為」と判断したが、浜野惺(しずか)裁判長は「個人的な行為」と認定し、憲法判断も示さなかった。原告側は上告を検討する。
 小泉首相の参拝を巡っては計7件の訴訟が起こされ、控訴審の判決は、同様に憲法判断を避けて請求を退けた7月の大阪高裁判決に続き2件目。
 判決によると小泉首相は01年8月13日、秘書官らを同行して公用車で靖国神社を訪問。内閣総理大臣小泉純一郎と記帳して私費で献花代3万円を支払ったうえで参拝した。
 原告側は「首相の職務として行った公式参拝違憲」と主張したが、浜野裁判長は、参拝の3〜4年後に首相が「個人として行った」と述べたことや、献花代を私費で負担した経緯などから「私的な宗教上の行為か個人の立場で行った儀礼上の行為」と判断。「職務行為ではないため、原告側の違憲との主張は前提を欠く」と述べ、憲法判断を示さなかった